出典: dol.ismcdn.jp
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現在はビジネスルックに身をつつみ、バッグから何枚もの名刺を取り出した。テーブルに並ぶ肩書きは、リフォーム会社、遺品整理業務、終活コンサルティングなどなど。これらはグループ会社の名刺ではなく、それぞれ別の会社の名前が記されていた。
「リフォーム会社以外は、ぶっちゃけペーパーカンパニー。“もしもし”の時と同じように10人くらいでやっているんだけど、従業員もみんな同じように何枚も別の名刺を持っている。“劇場型”でやるためにね」
日頃、A氏のグループが活動を行うのは、一戸建てが立ち並ぶ郊外の住宅街。築浅物件の前を足早に通り過ぎ、築数十年は経っているような、いかにもくたびれた一戸建てのインターフォンを押す。
「お家の中を見せていただけませんか?」
リフォーム業者として、屋根裏など家の中を調査をし、「土台が腐っている」「耐震補強をしないと東海沖地震で全壊する」などと家主に信じ込ませて工事を行う、いわゆる「リフォーム詐欺」の手口だ。
だが、A氏たちの本当の目的はそこにはないのだという。
「俺たちは、むしろリフォームはただの“入り口”っていう考え。リフォームでだまされやすい人間だと分かったら、今度は遺品コンサルティングの名刺を持った人間がインターフォンを押して、『終活をしませんか?』って生前整理の営業をかける。宝石や希少品なんかを買い叩いて、裏で高額で流したりもするし、遺品だけじゃなくて土地とか遺産の整理なんかも勧めるね」
彼らは、「死後の相続トラブルの防止になるし、相続税が安くなる」と高齢者を丸め込み、「相続税の申告」や「遺産整理費用」として数百万円を請求するという。
高齢者の中にはお金がないケースもあります。
しかし、悪徳業者はあきらめません。
お金がない、払えないという高齢者には「リバースモーゲージローン」を提案し、お金を支払わさせるのです。
「リバースモーゲージローン」とは、一定年齢以上の人を対象に、銀行が融資する商品。
利用者は自宅の土地・建物を担保として銀行に差し入れます。
そして、現金が必要になったら、銀行が定めた金額の範囲内で借り入れることができるというもの。
死後に家を売却することで、借入金をチャラにできるというのが売りです。
悪徳業者は信託会社を装って、「リバースモーゲージローン」を持ちかけ、不動産の所有権を移転させて、お金をだまし取るのです。
振り込め詐欺に代わって広がりつつある郊外型の「ピンポン詐欺」。その背景の一つには、詐欺集団の「中年化」がある。
振り込め詐欺は2000年代初頭から流行し、若者層を中心に手を染める者が増えたが、第一世代は現在すでに30代後半から40代。詐欺犯といえども普段は一般人のように過ごし、家庭を築いている人間も少なくない。
前出のA氏も30代後半になり、「振り込め詐欺時代より収入は減ったけど、リスクを取りたくないから“ピンポン”をやっている」と語る。
「リフォームも、遺品整理もグレーなビジネスだけど、訴えられなければ詐欺じゃないし、逮捕される可能性も少ない。振り込め詐欺は刑が重くなって1回捕まると10年以上のロング(長期刑)が確実。刑務所を出たら50歳近くになるわけで、さすがにそこから人生やり直せないからね」
逆に、振り込め詐欺時代より年収がアップしたというB氏は、4年前に詐欺業界から足を洗った過去があるという。詐欺時代に貯めた資金で飲食関係の会社を立ち上げたが、2年で倒産。結局また詐欺業界に舞い戻ってきた。
「詐欺からホワイトの事業を立ち上げて成功した人間なんて、ほんの一部だと思いますよ。僕の場合もそうだけど、みんな楽して稼ぐのが染み付いちゃってるから、うまくいかないんです。かといって、今さらサラリーマンになれるわけでもないし、ヤクザなんてもっと務まらない。自分にやれることを考えたら、高齢者相手の似たようなビジネスしか思い当たらないんです」
さながら、セカンドキャリアを憂うようにB氏は語る。
高齢化する日本社会の中で生まれた、振り込め詐欺という時代の鬼っ子。手口は変われども、次から次へと新しいタイプの詐欺が生まれ、この先も完全に撲滅することは難しいだろう。高齢化率は、今後30年で現在の20%から40%にまで達すると予想されているが、もしかしたら「高齢者が高齢者をだます」ような時代が将来やってくるのかもしれない。
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