ポケモンGOは任天堂のスマホゲームなのだが、特徴は3つある。ひとつはこれが任天堂の初めてといっていい大型のソーシャルネットワークゲームであるということ。2番目に実際に街中に出かけてそこでポケモンをゲットするというゲームの仕組み。3番目にそのための「ポケストップ(ポケモンをゲットする場所)」と「ジム(自分が所属してそこでポケモンを育てたり対戦したりする場所)」が街中に設置されているというビジネスモデル。
この3つのキーワードを分析すると、任天堂という企業の価値がポケモンGOで激変する可能性がある。それはどういう意味なのだろうか?
そもそも任天堂が落ち込んだ理由は何だったのかを整理してみよう。任天堂の株価はこの10年間ぱっとしなかった。リーマンショック直前につけた7万円台をピークに下降をつづけ、アベノミクスでの日本株上昇からも取り残され、ここ1年では1万円台と2万円台の間をいったりきたりという低迷状況だった。
理由は任天堂のビジネスモデルである、ゲーム機を普及させ、それをベースにそこで販売されるサードパーティを含めたゲームのライセンス収入で儲けるやり方が、スマホの普及で時代遅れになったことだ。
いつの間にか世の中はわざわざ専用のゲーム機をつかわなくてもスマホでゲームができる時代になった。任天堂に都合が悪いことに、スマホは初期設定ですべてネットワークにつながっているから、ゲームの主流はオンライン上で仲間と共闘したり戦ったりつながったりできるソーシャルゲームに移って行った。
この流れから取り残されたということで、任天堂は「世の中から取り残された企業だ」というレッテルを貼られてしまったのだ。
さて、そこでポケモンGOの出現である。任天堂は実はハードで世の中を支配してきただけではなく、ポケモンとマリオという非常に強いコンテンツを持っている企業でもある。
そのコンテンツがいよいよスマホのソーシャルゲームに登場した。そしてここが重要なところなのだが、いざ登場してみるとあっという間に、これまでスマホのソーシャルゲームで「強い」と言われていたコンテンツを追い抜いて、ダントツの業界トップにたどり着いてしまった。
これまで過小評価されていた任天堂のコンテンツ力が、実はものすごく強いものだったことを世の中があらためて再評価したのである。これ1本で任天堂はパッとしない企業から一気に急成長企業へと評価が逆転したと言うことができる。
しかしポケモンGOはゲームワールドの消費者を驚かせただけではない。ビジネスワールドの投資家を驚かせるもうひとつの仕組みが内蔵されていた。
それが、ユーザーが外に出て「ポケストップ」でポケモンをゲットしたり、「ジム」に所属してそこでポケモンを育てたり対戦したりするという仮想現実の導入である。ポケモンGOは消費者を「外へ連れ出す」能力を身につけた。そしてそれはゲームユーザーの健康にいいというだけではなく、任天堂に新たなビジネスチャンスを生み出した。
実は22日にポケモンGOが配信する直前、リークの形でポケモンGOが日本マクドナルドと提携するというニュースが流れた。リークなので全貌がニュースになったわけではないが、要するに日本マクドナルドの店舗がいち早く「ポケストップ」ないしは「ジム」として提供されるということを意味すると、われわれはそのニュースをとらえた。
これがどういうことかというと、
(1)日本マクドナルドに店舗でしか手に入らないポケモンがこれから登場する
(2)日本マクドナルドの店舗をジムに設定したユーザーは、毎週その店舗に通ってポケモンをトレーニングしたり、そこでバトルを楽しむようになる
という可能性を意味している。
もしこの試みが成功すると、任天堂はこれまで持っていなかった物凄い力を手に入れることになる。それは、任天堂と組んだ店舗に消費者が動く、つまり任天堂は消費者を自在に動かし、小売店や飲食店に大量に集客できるようになるという広告集客力だ。
日本マクドナルドとの提携が終わったら、次に別の企業が手を挙げることになるだろう。そしてどこが手を挙げても、その企業は圧倒的な集客力を手にいれることになる。
イオンとイトーヨーカドーのどちらが任天堂と手を組むか?居酒屋のモンテローザとワタミのどちらが任天堂と手を組むか?
もしポケストップに設定されている美容室とそうでない美容室が存在したら消費者はどちらに行くのか?もし消費者が外食の目的地をグーグル検索や食べログ検索の代わりにポケモンで検索するように行動が変わったら?
集客広告という観点で言えば、任天堂は別に提携を一社に限る必要はない。契約は1週間区切りで、同時に何十種類、ないしは何百種類の集客広告枠を任天堂が設定して、その契約に応じてレア度の大きいモンスターをさまざまな業態の店舗に配信するなど、広告商品としての販売形態や広告の価格表はいくらでも拡充することができる。
グーグルと同じようにポケモンの種類と出現率を数円~数十円のキーワード広告で販売するビジネスモデルすら、構築可能だろう。
そうなると今後、インターネットで配信される広告はどうなるだろう?ファミレスのクーポン広告は?ホットペッパーやぐるなびなどの集客メディアはどう打撃を受けるのか?イオンやセブン-イレブンのテレビ広告はどうなるのだろうか?
これはひとことでいえば「集客広告市場に出現した最強企業」としての任天堂の新たなる脅威である。既存の集客広告市場に、任天堂が参入する。
そのことにメディア業界の人々が震撼するのは、これからもうまもなくのことである。
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